1頭の名馬がこの世を去った
3頭の3冠馬による世紀の一戦が繰り広げられたジャパンC(G1)。1着アーモンドアイ、2着コントレイル、3着デアリングタクトという決着は、各馬が死力を尽くした結果であり、多くのファンに感動を与えた。まだ約1か月残っているが、今年を代表する一戦と評しても過言ではないだろう。このレースに華を添えたのは大逃げを打ったキセキだ。1000m通過が57秒9のハイペースとなったことでスローの瞬発力勝負にならず、実力を発揮しやすい状況を作り上げた。
また、それ以外に印象に残ったのはフランスから参戦したウェイトゥパリスだろう。昨年は海外馬の出走はゼロと創設後初の非常事態となったジャパンCに、コロナ禍でありながらも参戦したことに敬意を表する声も多く上がった。
だが、それ以上にインパクトを残したのはゲート入りを嫌がったことだ。目隠しをしながらも欧州と日本のゲートの違いによりなかなかゲートに収まらず、約5分間発走時刻を遅らせることとなった。スタートを待ちわびるファンにかなりのインパクトを残したのではないだろうか。名レースに名場面はつきものというわけだ。
歴史に残るレースでも名場面は存在する。14年前の名レースに華を添えた1頭の個性派が天国へと旅立った。
6日、JRAはスイープトウショウ(牝19歳)が5日の午後にノーザンファームで腸捻転のため、死亡したことを発表した。
G1・3勝の個性派の名牝
G1・3勝を挙げた名牝スイープトウショウ。2005年の宝塚記念(G1)では11番人気の伏兵という立場ながらも、ハーツクライ、ゼンノロブロイら強豪を蹴散らして優勝。その男勝りな強さで競馬界を席巻した。ただ、それ以上にスイープトウショウがファンの心に残る名馬であるのは、我の強い性格である。
もともと出遅れ癖のあったスイープトウショウだが、年齢を重ねるにつれてワガママっぷりは加速していく。調教のときに数十分以上もその場から全く動かなかったり、馬場入りを嫌がったりというエピソードがある。他にも、池添謙一騎手がレース前に他の騎手に対して「ご迷惑をおかけします」と予め言っていたという逸話も……。
そんなヤンチャ娘を多くのファンが見守ったレースが2006年の有馬記念(G1)だ。
ディープの引退レースでもわがままブリが炸裂
ディープインパクトの引退レースということで、 “ラストフライト”を一目見ようと中山競馬場には11万7251人ものファンが詰めかけた。レースはディープインパクトが有終の美を飾って幕を閉じた。だが、レース前に注目の的となったのはスイープトウショウである。初の中山競馬場参戦ということも影響してか、スイープトウショウはゲート入りを嫌がり、その影響で発走時刻が遅れてしまった。11万人の大観衆はそのゲート入りを固唾を飲んで見守り、無事ゲートに入った際にはスタンドから拍手が巻き起こった。
レースでは出遅れも響いて10着という結果に終わったが、ディープインパクトの次に強い印象を残したのはスイープトウショウだったかもしれない。
亡くなってしまったことは残念だが、仔のスイーズドリームス、スイープセレリタスはオープン馬として活躍中。また、ドゥラメンテとの間に生まれたクリーンスイープも2歳戦ですでにデビューしている。特に、スイープセレリタスは19日のターコイズS(G3)に出走を予定しており、母へ弔いの勝利を挙げられるか注目が集まる。 その血は競馬界で脈々と受け継がれることだろう。これからもスイープトウショウはファンの中で忘れられない存在として記憶に残り続けるはずだ。